冨樫を一度終わらせ、エヴァより早かった栄光なき天才漫画家、萩原一至「バスタード!!」はなぜ消えたのか：本棚持ち歩き隊！：SSブログ

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冨樫を一度終わらせ、エヴァより早かった栄光なき天才漫画家、萩原一至「バスタード!!」はなぜ消えたのか　[名作紹介] [編集]

なんとなく、山田玲司が冨樫義博について語ってる動画を見ていた。
幽遊白書がああいう終わり方した理由のところで、「萩原のせいだろ」と内心ツッコミを入れつつ見ていたら「萩原一至のせいです」と山田玲司が発言したので驚いた。やっぱり萩原のせいだったのか！意外とみんな同じこと思ってたのね。

萩原一至はかつて少年ジャンプで連載していた漫画家。
代表作「バスタード!!」は、ヒロインのキスで目覚める女たらしの天才魔法使いが主役のファンタジー漫画。初めて同人誌的なノリを持ち込んでジャンプでヒットさせた作品だと思う。さらに容赦ないエロ描写で話題だった。少年誌でおなじみの寸止めエロではなく、編集部が止めなければ逮捕されるぐらいの描写をやりかねない作家だった。

バスタードは一度打ち切られてしまうのだが、新人用の増刊号で連載が再開され、そこで萩原一至は作家として特異な変貌を遂げる。絵が異常に上手くなってしまうのである。もともと下手な作家ではなかったが、飛び抜けてどうというレベルでもなかった。

もともと作画にはこだわりたかったのだろうが、そこは週刊連載である。打切り間際には状況を文字だけで表現して間に合わせた原稿を載せたこともあった（大騒ぎになった）。そこへ来て移籍した増刊号は季刊である。リミッターが外れた。異常な書き込みと作画の手間は大評判になった。冨樫義博は他所から中二病エッセンスを取り込むことに長けた作家だったが、萩原一至の作画能力だけは取り入れることができず消化不良を起こし一度作家として終わってしまった。

萩原一至の作画のピークは14巻あたりだと思う。
連載当初、ラスボスとして設定していた破壊神の正体である天使が正体を現したあたり。

ところでこの天使、萩原一至はウルトラマンとして描いている。これがかなりツボだった。素晴らしいアイディアだ。のちに、ウルトラマン＝仏像モチーフというのも聞いたりする様になったが、萩原一至がどういう経緯で着想を得ていたのかは知る由も無い。この二年後に始まるエヴァンゲリオンも、ウルトラマンがモチーフになっているが、やはり天使的描写がされる。世界が崩壊していくシーンなども、ネルフ本部が襲撃されるシーンに匹敵する怖さがあった。

魔戦将軍達が超必殺技を次々に繰り出すシーンがすごい好きだ。
魔戦将軍はいわゆる十本刀的な、少年漫画でありがちな引き伸ばし要員の次々にやられていく敵幹部キャラクターなのだが、一度連載が打ち切られ早急な完結を作者が意識したせいか、この先どう考えてもキャラ立ちできない感じになってしまっていた。そんな彼らが「貴様らと決着をつけるのはラスボスを倒した後だ！」みたいなおなじみのノリで仲間になり、ただただ次々と必殺技を繰り出すのである。それが萩原一至の超画力で描かれるのだから大層かっこいい。こんな余りキャラの処理の仕方は類がない、ような気がする。

冨樫義博を一度作家として終わらせ、エヴァよりも二年早く終末の世界を描いて話題を呼んだ萩原一至はなぜ今語られることが少なくなったのか。

天使登場のあたりでヒロインの体型が幼くなってしまったのが崩壊の序曲だったように思う。週刊連載中の終盤で大きく時間が経過し、必然的に作者はヒロインの体型を大人っぽく描写する必要があった。これが作品に大人の女＝オシャレ感を出させたのだ（と思う）。卓越した描写能力にセンスが加わったのだ。だが途中それに飽きたのか、作者はヒロインの衣装がえをキッカケに、唐突かつ強引に行いデザインを幼くしてしまったのだ。これによって、作風がだんだん萌え豚アニメ方向に行ってしまった。ストーリーも人vs神から神vs神みたいな、つかみどころのないものにならざるを得ず、必然的に旧キャラはインフレについていけず一掃。迷走して行った。

迷走する萩原一至だったが、集英社は度々萩原一至を雑誌を売るためのカンフル剤として使おうとする。今考えると無謀極まりないが、週刊に呼び戻そうとしたりもした。終わったと思った冨樫義博も週刊に戻した。ジャンプを読み始めた時期からの経験でいうと、あり得ない処置だった。部数低迷が避けられないジャンプ編集部の、なりふり構わない姿勢が伺えたものである。そして萩原が消え、冨樫は結果を残し続けているのである。なんとも皮肉な展開だ。

　
もし天使をラスボスにバスタードが終わっていたら、いまも活発に語られる作品になっていたかもしれないと思うと色々惜しい。

　