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東田の誤植で車田正美のペンネームが生まれた!…というガセネタは本人の自伝から!車田正美「藍の時代」 [この人気漫画が面白くない]

車田正美「藍の時代-一期一会-」を電子化した。
あの聖闘士星矢、リングにかけろの作家の自伝である。

2000〜2009年に連載された「リングにかけろ2」で、漫画家としてすでに死んでいることが発覚した車田正美だが、2015年のこの作品はだいぶ持ち直しているなという印象。それでも全盛期に比べれば、介護の人がついて日常生活をおくれるぐらいのリハビリ度だ。というか、よく見るとアシスタントが背景頑張ってんなという感想を強く持った一冊だった。
藍の時代2.png
(ちょっと鍋のデカさが気になるけど。。。)

自伝ではあるが、かなりリアリティーが薄い。
ヤクザになった友人が刺されて死にかけながらポストに投函しようとしたアンケートハガキが風に吹かれて作者の元まで届いただとか、デビュー前の本宮ひろ志の原稿を拾って読んでいただとか。打ち切りになった平松伸二の「そして僕は外道マンになる」もドキュメンタリー漫画適正の無さを端々に感じたが、「藍の時代」はそれの比ではない。

何しろ車田正美がジャンプではなく、チャンピオンに持ち込んでヒットを飛ばすというストーリーになっているのである。現在の主要取引先に配慮したとか、雑誌名をもじったとかそういうレベルの話ではない。秋田書店の伝説的編集者である壁村耐三と二人三脚で「リングにかけろ」を作ったとかいう話になっているのである。
藍の時代3.png
(リング階段は一応出てくる)

車田正美的にはエンタメに徹したのだとインタビューで語っているが、ファンとしてはまあ興ざめである。出版社も諌める人がいないのではないか。諦めてこの作品を「自伝ではなく超自伝」なのだとして売り出している。宮下あきらぐらいの馬鹿話にできるのなら「超自伝」でもいいのだが、「藍の時代」に関しては滑り倒した上に秋田書店デビューという脚色でトドメを刺したような結果に終わっているように感じる。

そもそも車田正美は何度も自分を主人公にした漫画を描いており、それらは「実録!神輪会」として単行本にまとめられている。読み返してみたが、いずれもクオリティが高い。ギャグがキレッキレだ。初期の「リングにかけろ」における高嶺菊のネームも勢いが素晴らしく笑えるので、全盛期にはギャグ漫画適正あったのだろうと思う。

神輪会の自画像はいずれも作者の特徴である唇を強調して描かれており、記号的なキャラクター造形を脱したリアリティある表現になっていると思う。藍の時代はそもそも作画が見てられないレベルな上に、唇を強調することを忘れてしまったのか貧相な記号に堕してしまった。
藍の時代1.png

「藍の時代」について検索したら、ダヴィンチニュースの車田正美インタビューがあった。まずダヴィンチがインタビューするほどの作品なんだ?ということに驚きだ。編集者が車田正美ファンなので会いたかったのか、何かしら秋田書店に借りがあったのか、売り込みに断りきれなかったのかとしか思えない。インタビュアーはべた褒めしてるけれど。まあ俺以外はみんな「藍の時代」を面白いと思っているという可能性も無くは無い。

メイキングインタビューを読んでいると、何それ面白そう。それを描けよ!と思ってしまうことが多かった。
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─このエピソードでは、やはり「健さん」がメインだと思いますが、この人は実在の人物ですか?

「そうだね。やっぱり高倉健さんは『男』の象徴なんだけど、それとダブらせた本物のヤクザ者の『健さん』。この人のモデルはひとりじゃなくて、何人ものエピソードを入れてるんだよ。当時の下町にはあんな人たちがたくさんいて、行儀のこととか注意されたりしてたな」

─宇津木刑事との交流も描かれていました。

「もちろんああいう人もいたよ。ちょうどウチの前に警察署があって、子供の頃なんてしょっちゅう出入りしてたな。2階に道場があったから、そこで柔道も教えてもらってたよ。でも警察署に出入り自由って、今では考えられないよな(笑)

─持ち込みをしている時に、中村さんという人に出会いますが、この人は……

「そうそう、その人もいるわけだよ、実際の人物が。アシスタントをやってる時にも、いろいろな人が井上さんのところに出入りしていた。それでお金を借りに来るんだよね、3歳くらいの子供を連れてさ。それで井上さんも貸しちゃうのよ(笑)。それを見て、漫画家ってのはホントにキツイ仕事なんだなって。デビューしたからどうにかなるもんでもないなって思ったよ」

─第5話は、親友のジュンとのエピソードが中心ですね。

「うん、彼も実在の人物。もちろんあんなに美少年じゃなかったし、絵が好きなやつでもなかったけど。昔は病気を持ってる人って結構いたんだよね。草野球やってたら突然倒れて、こっちは『何ふざけてんだ』とか思ってさ
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劇中では主人公の姓「東田」の誤植により「車田」のペンネームが生まれたとなっており、面白いと思ったのだが。。。
藍の時代4.png
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─自伝ではデビュー作の掲載時、「東田正巳」の名前が「車田正美」になっているわけですが、この辺りのお話を聞かせてください。

「これは事実とは逆の発想でね。『ヤングジャンプ賞』に応募した時『今後、期待ができる』みたいなところに名前が載ったんだけど、『東田正美くん』って間違えられたんだよ(笑)。だから本編では逆に使ってみたんだ
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なんと本姓はまんま「車田」で、逆に「東田」と誤植された思い出を逆手に取ったのいうのが真実だったのだ。
まぎらわしすぎるよ!

ちなみに、ジャンプでなくチャンピオンに持ち込んだと脚色した経緯については、
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─『週刊少年ジャンプ』ではなく『週刊少年チャンピオン』に持ち込みますが、この辺は掲載誌を意識してのことでしょうか。

いや、ひねったんだよ。自伝漫画って、事実の通りに描くとつまらないんだよな。そもそも人ひとりの人生に、そんなに山や谷、嵐があるわけがない。平和な時代に生まれた人間なら、特にね。だからそのままジャンプに行ってデビューしたら、あまりにもひねりがないじゃない。そこを膨らませて、チャンピオンに行ったんだよ
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先生!
そこひねるとこじゃ無いですから!
膨らんで無いですから!
アメリカでデビューするとかならまだしも!

ちなみに車田先生は続編にも意欲を見せているらしい。
今や島本和彦が「アオイホノオ」で引用するぐらい、俺ら世代の漫画史考える上で再検証が行われなければいけない作家である。もっとちゃんとしたブレーンがついて欲しい。。。

 
タグ:車田正美
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