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江川達也の解説動画から考える「手塚石ノ森知らないと嘆かわしいのか」問題、手塚治虫の答えは「それでいいんです」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

こないだ山田玲司きたがわ翔江川達也について語る動画を見た。

江川達也のデビュー作、「BE FREE!」について語る語る。
特にきたがわ翔の分析がすごい。
何枚もスケッチブックに江川達也の絵を模写して解説。

前後編になっており、前編はほとんど「BE FREE!」で終わっている。
金取れる動画だ。
実際、後編を課金して見たぐらいだ。

ところがである。
後編で「BE FREE!」以降になると、ほとんど語らなくなってしまうのである。
読んでいる人を出して語らせ、それをあまり興味なさそうに二人は聞いていたように見えた。

二人とも、今後も江川に描き続けて欲しい、俺たちだけは何が起こってもずっと味方だとエールを送りつつも、「BE FREE!」以外はなんの興味もないのである。おそらく新作描いたとしても読まないだろう。

江川達也作品を自分が最初に読んだのは「まじかるタルるートくん」だ。
当時感じたありのままを言えば器用な中堅作家という印象だった。
鳥山明的なセンスを感じたが、計算が目に付く。
今読み返すと、逆にそれが良いとも思える。
現在のイメージと遠い、読者に対して謙虚な姿勢を感じる。

タルるート後、「東京大学物語」「ゴールデンボーイ」の二刀流で打ちのめされた(初期は)。これは読めねばなるまいと思い、「BE FREE!」の愛蔵版を全巻購入したのだが、これがまたイマイチだったのである。当時、「BE FREE!」をバイブルに挙げる作家をよく見た。今でもたまに見る。何か革新性があったんだろうなというのはなんとなく伝わる。

きたがわ翔の解説を聞いていると、「BE FREE!」はそれ以前のマンガの予備知識があるからこそ楽しめたというのもあるようだ。リアルタイムで読んでいたからこその面白さ、革新性ではないのかということだ。だからタルるートから読み、「東京大学〜」を経て「BE FREE!」を読んだ自分には良さがわからなかったのではないか。そして動画の二人にとって、それ以後の江川作品は自己模倣の縮小再生産に思われた。一人の作家でも、どこから読むか、世代によってこれだけ評価が変わってしまうのである。

江川達也解説動画は、漫画が作家間で行われる記号のリレー、伝言ゲームだということも示唆している。だからそのことさえ分かっていればぶっちゃけ読んでおかねばならない過去の作品なんてものは無いように思える。

新しい世代が古い世代の作品を読むことは、一手間加わる。同じようでフォーマットが違うのだ。ジャンプしか読まない人がアメコミや少女漫画を読み始めるようなものだ。前回の「手塚や石ノ森を読んだこともないなんて嘆かわしい」のエピソードだけれども、苦労なく読めた世代のくせに、苦労を強いられるから読まない世代にマウントをとっているわけである。実際、嘆いた人がどんな人かは知らないけれども、こういうことは往往にしてある。

最近よく2ちゃんのまとめで「ドラゴンボールなんて今のジャンプで連載したら10周打ち切りだよな」という挑発的なコメントを見かける。おそらく「ドラゴンボールも読んでないなんて。。。」という人たちに対するカウンターなのだろう。最近、ドラゴンボールハラスメントとか炎上してたなそういや。江川達也がよく「自分は一番厳しい時代のジャンプで戦ってきた。今の奴らと一緒にするな」みたいなことをコメントしてた。

「ワンピース」や「ナルト」から漫画を読みだした今の世代の子が、どう読んでもドラゴンボールが受け入れられない、過大評価だと感じるのは有り得ると思う。「黒子のバスケ最高!」と言ってる若者に「スラムダンクも読んだことないなんて。。。」とか、気持ちはわかるが、構造的に陥りやすい老害の道に入り込み始めてると理解した方がいいと思う。ちなみに俺は「はじめの一歩」を中学時代の頃から愛読しているんだけど、「あしたのジョー」は二十歳ぐらいになって初めて読んでピンとこなかったんだよなあ。

 
ここがどこだって?
俺が生まれたんだから世界の中心よ!
…というノリは嫌いでもないけども、誰にとっても自分の生まれた時代が全て。
だからどの世代も「〜は最近ダメになった」「今時の若いもんは」などと繰り返すわけである。
ある意味避けられない現象だが、自覚的でいることは大事だと思う。

 
石ノ森章太郎が手塚治虫との興味深いやり取りを漫画にしている。
残りません.png
「…マンガは残りませんよ。」
「…そうかなァ… そうでしょうか。」
「作者と一緒に時代と共に、風のように吹き過ぎていくんです。ーそれでいいんです。」

さすが巨匠だなあ、と思う。

 



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