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差別反対で始まった人が拭えなかった差別心とは?大谷昭宏「こちら社会部」バーチャルアイドル編。 [心に残る1コマ]

以前、漫画「デスペラード」に関わった人のその後を調べていたら、紹介されていたバンドのメンバーがその後、2012年の大阪の通り魔事件で殺されていたことがわかった。犯人は元暴力団員で違法薬物で捕まったこともあるという。

事件発生直後、これをオタクの犯行ではないかとTVで解説して炎上した人がいたらしい。その人の名前は大谷昭宏。画像検索してみたら、よく見る顔。元新聞記者のコメンテーターなんだそうだ。二人が殺されたこの事件をオタクの犯行と考えた理由は、犯行現場がオタクスポットと近かったから、なんだそうだ。なんだそりゃ。

で、この大谷昭宏という人についてウィキペディアで調べてみると、漫画原作者としてオタク批判も行なっているという。そのタイトルが「こちら社会部」。その前作である「こちら大阪社会部」の文庫は親が読んでいたので実家に置いてあったが、俺はあまり熱心に読んでいなかった。作画はベテランの大島やすいちである。

興味を持ったので「こちら社会部」全4巻と、原作者の著作である「OL殺人事件」を購入。後者は著者にとって印象的だった事件を振り返った連載新聞記事をまとめたもののようだ。「こちら社会部」はそのコミカライズという感じか。

問題の「こちら社会部」のバーチャルアイドル編は2巻に収録。1997年ごろに描かれたようだ。「ときめきメモリアル」を元ネタにしたと思われる人気恋愛シミュレーションゲームにハマりすぎた人間が、声優を誘拐するという話だった。

読み始めていきなり温度が低くて驚いたのだが、大谷氏をモデルにした主人公が恋愛シミュレーションに熱中してるのだ。
こちら社会部1.png
同僚も現代人の常識と言ったり、見識のアリそうな上司が高校生の息子と一緒に遊んでいることを照れながら告白したりする。
こちら社会部2.png

こちら社会部3.png

2012年の大阪の通り魔事件については、オタクの盛り場に近いからオタクが犯人と断ずるという、何か怨念まで感じるその救いようのない差別感だった。「こちら社会部」ではさぞかし恋愛シミュレーションゲームに対する侮蔑が並べられているのかと思いきや意外だ。

ところが大谷氏は「社会部」から6年後の2003年にこんなことを書いている。
なぜ萌えというのかは、諸説あって不明だが、要は若者たちが生身の人間ではなく、パソコンの中に出てくる美少女たちとだけ架空の恋愛をして行くというのだ。そこにある特徴は人間の対話と感情をまったく拒絶しているということである。少女に無垢であってほしいのなら「キスしたい」という呼びかけに「ワタシ、男の人とキスしたことがないから、どうしていいのかわからない」と答えさせ、その答えに満足するのだ。自分の意に沿わない答えや、気に入らない少女の心の動きは完全に拒否する。

と、かなり温度が上がっている。
この記事は「奈良小1女児殺害事件」の発生二週間後、犯人が逮捕される一週間前に書かれ、『対話も感情もない「萌え」のむなしさ』というタイトルでスポーツ新聞に載った記事なんだそうだ。

こちらの事件は、犯人が幼女を誘拐した直後に溺死させたことから、「等身大のフィギュアを作るための、フィギュア好きのオタクの犯行だったとしか思えない」という、とんでもない主張に至っており、やはり盛大に炎上したという。やはり極度の差別感がある。

さて、「こちら社会部」と「萌えのむなしさ」の6年の間に何があったのだろうか。
推測だが、「こちら社会部」は作画の大島やすいちによる直しが入っているのではないかと思う。実際に大谷氏の書いた原作はもっとオタク蔑視が並べられていたのではないか。

大島やすいちはウルトラベテランだ。良い意味でも悪い意味でもあまり尖ったところのない作家だと思う。そこが自分にとって苦手な部分でもある。どちらかというとサラリーマンが電車で読んで網棚に忘れていく系の庶民の娯楽作を描き続けている印象だ。

大谷氏のオタク蔑視は大島やすいちの作風と明らかに合わない。それに、かなりちゃんとしたスタッフを抱えていないと出来ない作画である。オタク蔑視がある人には職場の人間関係が維持できないだろう。娘だって漫画家だ。明らかに常軌を逸している大谷氏の主張をそのまま通すとは考えにくい。

おそらく大谷氏は直しに応じなかったのだろう。
そもそも変なプロットである。「バーチャルアイドルを誘拐!」というのは漫画らしくハッタリが効いている。ここを大島氏が生かそうと思ったのは分かる。しかし「こちら社会部」は実際の事件をモチーフにするフォーマットの漫画ではなかったのか。だから色々変なことになっている。

実際は声優が誘拐されたというだけの話である。
それが、「二次元に恋したゲーマーが実在しない人物を誘拐した前代未聞の事件」として警察のお偉いさんが「実在しない人物をどう誘拐するんだ?」と頭を悩ませるのである。
こちら社会部4.png
(↑言うほど有り得るか?)

いや、単に誘拐事件として対応すればいいだけでは。。。と思うのだが、あくまでもバーチャルアイドルが誘拐されたということで話を進めようとしており、犯人も声優を誘拐したのではなく、バーチャルアイドルを誘拐したのだと思い込んでいる(単なる頭のおかしい人なのではないか。。。)ことを強調している。

事件解決も、ゲームのシナリオや裏技をなぞって犯人逮捕に結びつく定番のもの。まるでリアリティがない。

実録シリーズの中に起こってもない架空の事件を織り交ぜ、大谷氏はオタク叩きをやろうとしたのだ。罪深いと思う。歳をとれば誰だって世の中に理解できないものが出てくる。大谷氏には事件記者として人間の喜怒哀楽を長年見てきたという驕りと、加齢を認めたくない焦りがあったのだろう。大谷氏の記事の言葉を借りるなら、オタクと人間として対話も心の動きも全くしてこなかったのだろう。

大谷氏の著作は1987年に出版した『開け心が窓ならば-差別反対大合唱が最初のもののようだ。そんな人が明らかな差別発言をしていた。今はどうかは分からないが。

これも差別反対運動に関わっていた自分が差別などするはずがないという驕りから、自らの行動を省みることができなかったのだと思う。ツイッターなどを見ていても差別反対、ヘイトスピーチ反対とか言いながら、「オタク気持ち悪い」「総理大臣はいくらでも叩いてもいい」という人がゴロゴロいる。

そもそも差別心というのは人間の本能である。私は差別心がない人間だというのは、私は人間でないと言ってるのと一緒だ、と言ったのは小林よしのりだったか。差別反対の人でも堂々と差別できる。オタクは差別者のための最後のフロンティアなのかもしれない。

百歩譲って大人のオタクは叩かれてもいいと思うが、氏の差別発言が巡り巡って子供のいじめにつながっているということも自覚してほしい。

いつか宮崎事件でマスコミを恨んだ子供時代のことを書きたいと思う。

 

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