SSブログ

ジェンダーバイアスのかかった漫画はなぜ滅ぼされなくてはならないのか?令和のテラさんここにあり [時事ネタ]

今度はジェンダーバイアスだそうだ。


楠本まきさんという漫画家が「ジェンダーバイアスのかかった漫画は滅びればいい」と語って注目を集めているらしい。そのインタビュー記事を頑張って好意的に読んでみたつもりだが、どうにも共感できないものだった。

そもそもジェンダーバイアスって何って話だ。
意味のことではない。
それを出版コード化してしまおうという姿勢に疑問を感じてしまう。

ちなみにインタビュー記事ではジェンダーバイアスを以下のように定義している。

>ジェンダーバイアス…性別によって社会的・文化的役割の固定概念を持つこと。社会における女性に対する評価や扱いが差別的であることや、「女性(男性)とはこうあるべき」となどの偏ったイメージ形成を指す。

インタビューのまずこの部分を読んで、首を傾げてしまった。
>その作品では、女の子が可愛いと思う女の子を描きたい、というのがまず第一にありました。その頃主流の少女漫画は学園モノで、特に取り柄もないしパッとしない主人公が、何かと男の子に尽くして、その優しさ(?)にほだされた彼の心を射止めてハッピーエンドというような話が多かったんです。私は、こういう主人公は嫌だなあと思っていて。「KISSxxxx」に出てくる“かめのちゃん”というキャラクターは、自分の容姿にうじうじ悩むこともないし、ややトロくても全く卑下しない。誰にも尽くさないし、男の子がいてもいなくても楽しくやっていけます。もちろん女子力アップも目指しません。それで、今も本当にたくさんの、当時少女だった読者の方たちが「私はかめのちゃんになりたかった」と言ってくれるんです。それがとてもうれしい。ちゃんと受け取ってもらえてよかったな、って。

連想したのはちばてつやの漫画、「ユカをよぶ海」だ。ちばてつやといえば「あしたのジョー」や「のたり松太郎」の人だが、「ユカをよぶ海」は少女漫画として描かれている。読んだことはないが、ちばてつやの自伝を二冊読んだその中でどちらにも取り上げられていて印象に残っている。最初に読んだ本は所有してないので記憶に頼るのだが、主人公の女の子がつまづいて「いけね」と舌をペロリ(テヘペロ)と描写したところ、大反響を巻き起こしたいう。

所有する『ちばてつやが語る「ちばてつや」』にはこうある。
>主人公のユカはいわば野生児のような少女で、『ママのバイオリン』のまなみとは大きく性格が異なる。前に述べたように当時の少女漫画といえば悲しい話ばかりで、ひたすら受け身の主人公が過酷な運命に耐えていくというパターンに、私はかなりストレスを溜めていた。そんな反発もあって、連載第二作は明るくて活発で、自分を率直に表現できる主人公にしてみたかった。主人公のユカが悲運に翻弄されるのは今まで通りだったが、いじめられて泣いてばかりいる主人公から、いじめられた時には言い返し、我慢し切れなくなった時には反撃するという方向に反旗を翻した。

>ユカは男の子が相手でも噛みついたりひっぱたいたり、時には取っ組み合いのケンカさえしてしまう。私はそんなユカをとても気に入っていたが、可憐な女の子が暴挙に出たり、ギャグで笑わせたりするというのは、当時の少女漫画ではタブーだった。予想通り、ユカが男の子に反抗するシーンを見た担当編集者はびっくりして、「これはちょっとまずいよ、せっかく人気が出てきたんだから描き直して」と言ってきた。この時ばかりは私の遅筆が功を奏した。締め切りはとっくに過ぎていて、もう描き直す時間がない。「それじゃあ間に合いません」とこちらも抵抗し、編集者も仕方がないと、不安を抱えながらもその回を載せてくれたのだ。

>するとどうだろう。発売直後から、私の家に読者からの手紙がドドドッと大量に届いたのである。当時の漫画雑誌はファンレターの送り先として、作者の住所を直接載せていたのだ。うれしいことに、どの手紙にも「お転婆なユカちゃん大好き」「男の子をやっつけて胸がすっとした」「もっと活躍させて!」と、ユカへの応援メッセージが書いてある。読者が、元気でお転婆な主人公を、熱熱に支持してくれたのだ。私は心の中で快哉を叫んだ。

>それまでは他人から何をされても我慢して、健気に生きていく、どこから見てもこんなに優しい子はいないという少女が主人公と決まっていた。そして、そうした主人公を読者の女の子たちが喜ぶものと漫画家も編集部も決めつけていたが、やはりそこには人間として無理がある。

>「女の子だって僕らと同じ人間だ。いじめられたら我慢しない。うれしい時は思い切り笑っていいんだ。口を閉じて上品に『ほほほ』なんてしなくていいんだ」
>そう思うと、ずっと感じていたモヤモヤが吹っ切れたような気がした。
>それ以後、さらに喜怒哀楽を表に出すキャラクターにユカを変えていくと、人気はますます確実なものになっていく手応えを感じた。

ちばてつやの場合、固定観念に凝り固まった編集者との戦いはあったわけだが、そういった交渉に使うための武器の一つとしてジェンダーバイアスがあっても良いと思う。しかしジェンダーバイアスを楯に交渉を押し切ろうとすると話がおかしくなってくる。一番大事なのは、面白いかどうかだ。楠本さんはルールとしてまずジェンダーバイアスのかかったものを一律禁止するという姿勢なのがおかしいと思う。

「ユカをよぶ海」は一番理想的なジェンダーバイアスの打ち破り方をした作品と捉えて間違いないと思う。ステレオタイプを打ち破った少女像が、新たなステレオタイプ像になるほどの大きな需要があったのだから。ドラッカー的に言えば、潜在的な顧客を創造したということだろうか。いわゆる、漫画はこうであるというお約束を打ち破ったわけである。ジェンダーバイアス言わなくても、そう言った固定概念を覆すことが商売の成功につながっていることは漫画に限ったことではない。

楠本さんインタビューにはこうある。
>それで、今も本当にたくさんの、当時少女だった読者の方たちが「私はかめのちゃんになりたかった」と言ってくれるんです。それがとてもうれしい。ちゃんと受け取ってもらえてよかったな、って。

楠本さんも、ユカをよぶ海も、商業的に成功をおさめたから一見正しいと思える。しかし、ユカ的な活発な女の子が少女漫画のお約束になって、生き苦しくなった内向的な女の子だってたくさんいたはずなのである。誰がその非ジェンダーバイアス観が正しいと言い切れるのだろうか。

楠本さんが問題に挙げている部分も首を捻る。
>今、私は少女漫画誌というより、もう少し年齢層の高い女性漫画誌で描いているんですけど、そうすると、婚活とか、女子力がテーマみたいな作品がものすごく多いんですよね。で、どうしてこうなるのかなと考えたときに、作家自身がジェンダーバイアスに囚われていると、まあ、作品もそうなってしまうよね、と。

>でも漫画だけではないですよね。姪っ子が小学校の4年生くらいの時に「女子力アップして、彼氏をゲット」みたいなライトノベルが流行っているんだと言って読んでいて、とても衝撃を受けたんです。これは本当になんとかしなきゃと思いましたね。

自分はイケメンでありながら、もう10年以上も彼女作りを失敗し続けて一度も成功したことのない人間だ。まあこの人的に言えば、彼女作らないと幸せになれないと世間にマインドコントロールされてる哀れな人、もっと他の生き方があるはずよ!頑張って!となるのだろう。大きなお世話である。

早い話が楠本さんは江川達也や山田玲司的な漫画家さんなのだと思う。
レールに乗った生き方をしている人を見ると、自由になれ!騙されてる!俺が本当の生き方を教えてやる!という人。

このままレールに乗り続けていたら死ぬ、苦しい、という人にこういう生き方があってもいいんじゃないですかと言うのはいいと思うんだけど、社会と自我をうまく折り合いつけてやっていくからこそ世の中回っていくと言う尊さってのが眼中にない。

過労死する社畜もいれば、コーラしか飲めずに死んだ漫画家も実際にいただろうし、ホームレスになって疾走して日記を描く漫画家もいたし、55歳になって仕事がなくなりお遍路旅をする漫画家もいた。花の慶次だったか。「自由とはのたれ死にする自由でもある」ってセリフをどこかで読んだ。自由になれと言って結果お前がその責任とるんかいという話だ。

耳をすませばにも有名なセリフがある。
「よし、雫。自分の信じる通り、やってごらん。でもな、人と違う生き方は、それなりにしんどいぞ。誰のせいにもできないからね」

うろ覚えだが、冨樫森監督、魚住直子原作の「非・バランス」はヒロインの「学校に通うことは戦争だ!」と言うセリフから始まっていて心を撃ち抜かれた。

そういう世間と折り合いをつけていく覚悟をしている人間を、操られているかわいそうな人としか見ない楠本さん的な人間は、俺から見たら逆にバイアスがかかって見えるのだ。

もちろんジェンダーバイアスを取り払うテーマはあっていいと思う。
正しさを誰かが決めるのかというのが難しい問題だ。
それを決めるのに楠本さんはふさわしくないと、俺個人は思う。
楠本さんはただのテラさんだ。
テラさん2.jpg
ちなみにプロからも非の打ち所がないと言われながらも「でも私じゃないよね」と言われ続けた俺だからこそ分かる女性観というのもあると思う。俺に言わせればこの世の中にはバイアスのかかった女性像しかない。楠本さんにだって絶対描けないと確信しているのである。やーいやーいバイアス作家〜!

 
ユカをよぶ海 コミック 全3巻完結セット (ちばてつや全集)

ユカをよぶ海 コミック 全3巻完結セット (ちばてつや全集)

  • 作者: ちば てつや
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1997/09/01
  • メディア: コミック



赤白つるばみ 上 (愛蔵版コミックス)

赤白つるばみ 上 (愛蔵版コミックス)

  • 作者: 楠本 まき
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2014/12/25
  • メディア: コミック


nice!(3)  コメント(0) 
共通テーマ:コミック

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。