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差別反対で始まった人が拭えなかった差別心とは?大谷昭宏「こちら社会部」バーチャルアイドル編。 [心に残る1コマ]

以前、漫画「デスペラード」に関わった人のその後を調べていたら、紹介されていたバンドのメンバーがその後、2012年の大阪の通り魔事件で殺されていたことがわかった。犯人は元暴力団員で違法薬物で捕まったこともあるという。

事件発生直後、これをオタクの犯行ではないかとTVで解説して炎上した人がいたらしい。その人の名前は大谷昭宏。画像検索してみたら、よく見る顔。元新聞記者のコメンテーターなんだそうだ。二人が殺されたこの事件をオタクの犯行と考えた理由は、犯行現場がオタクスポットと近かったから、なんだそうだ。なんだそりゃ。

で、この大谷昭宏という人についてウィキペディアで調べてみると、漫画原作者としてオタク批判も行なっているという。そのタイトルが「こちら社会部」。その前作である「こちら大阪社会部」の文庫は親が読んでいたので実家に置いてあったが、俺はあまり熱心に読んでいなかった。作画はベテランの大島やすいちである。

興味を持ったので「こちら社会部」全4巻と、原作者の著作である「OL殺人事件」を購入。後者は著者にとって印象的だった事件を振り返った連載新聞記事をまとめたもののようだ。「こちら社会部」はそのコミカライズという感じか。

問題の「こちら社会部」のバーチャルアイドル編は2巻に収録。1997年ごろに描かれたようだ。「ときめきメモリアル」を元ネタにしたと思われる人気恋愛シミュレーションゲームにハマりすぎた人間が、声優を誘拐するという話だった。

読み始めていきなり温度が低くて驚いたのだが、大谷氏をモデルにした主人公が恋愛シミュレーションに熱中してるのだ。
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同僚も現代人の常識と言ったり、見識のアリそうな上司が高校生の息子と一緒に遊んでいることを照れながら告白したりする。
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2012年の大阪の通り魔事件については、オタクの盛り場に近いからオタクが犯人と断ずるという、何か怨念まで感じるその救いようのない差別感だった。「こちら社会部」ではさぞかし恋愛シミュレーションゲームに対する侮蔑が並べられているのかと思いきや意外だ。

ところが大谷氏は「社会部」から6年後の2003年にこんなことを書いている。
なぜ萌えというのかは、諸説あって不明だが、要は若者たちが生身の人間ではなく、パソコンの中に出てくる美少女たちとだけ架空の恋愛をして行くというのだ。そこにある特徴は人間の対話と感情をまったく拒絶しているということである。少女に無垢であってほしいのなら「キスしたい」という呼びかけに「ワタシ、男の人とキスしたことがないから、どうしていいのかわからない」と答えさせ、その答えに満足するのだ。自分の意に沿わない答えや、気に入らない少女の心の動きは完全に拒否する。

と、かなり温度が上がっている。
この記事は「奈良小1女児殺害事件」の発生二週間後、犯人が逮捕される一週間前に書かれ、『対話も感情もない「萌え」のむなしさ』というタイトルでスポーツ新聞に載った記事なんだそうだ。

こちらの事件は、犯人が幼女を誘拐した直後に溺死させたことから、「等身大のフィギュアを作るための、フィギュア好きのオタクの犯行だったとしか思えない」という、とんでもない主張に至っており、やはり盛大に炎上したという。やはり極度の差別感がある。

さて、「こちら社会部」と「萌えのむなしさ」の6年の間に何があったのだろうか。
推測だが、「こちら社会部」は作画の大島やすいちによる直しが入っているのではないかと思う。実際に大谷氏の書いた原作はもっとオタク蔑視が並べられていたのではないか。

大島やすいちはウルトラベテランだ。良い意味でも悪い意味でもあまり尖ったところのない作家だと思う。そこが自分にとって苦手な部分でもある。どちらかというとサラリーマンが電車で読んで網棚に忘れていく系の庶民の娯楽作を描き続けている印象だ。

大谷氏のオタク蔑視は大島やすいちの作風と明らかに合わない。それに、かなりちゃんとしたスタッフを抱えていないと出来ない作画である。オタク蔑視がある人には職場の人間関係が維持できないだろう。娘だって漫画家だ。明らかに常軌を逸している大谷氏の主張をそのまま通すとは考えにくい。

おそらく大谷氏は直しに応じなかったのだろう。
そもそも変なプロットである。「バーチャルアイドルを誘拐!」というのは漫画らしくハッタリが効いている。ここを大島氏が生かそうと思ったのは分かる。しかし「こちら社会部」は実際の事件をモチーフにするフォーマットの漫画ではなかったのか。だから色々変なことになっている。

実際は声優が誘拐されたというだけの話である。
それが、「二次元に恋したゲーマーが実在しない人物を誘拐した前代未聞の事件」として警察のお偉いさんが「実在しない人物をどう誘拐するんだ?」と頭を悩ませるのである。
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(↑言うほど有り得るか?)

いや、単に誘拐事件として対応すればいいだけでは。。。と思うのだが、あくまでもバーチャルアイドルが誘拐されたということで話を進めようとしており、犯人も声優を誘拐したのではなく、バーチャルアイドルを誘拐したのだと思い込んでいる(単なる頭のおかしい人なのではないか。。。)ことを強調している。

事件解決も、ゲームのシナリオや裏技をなぞって犯人逮捕に結びつく定番のもの。まるでリアリティがない。

実録シリーズの中に起こってもない架空の事件を織り交ぜ、大谷氏はオタク叩きをやろうとしたのだ。罪深いと思う。歳をとれば誰だって世の中に理解できないものが出てくる。大谷氏には事件記者として人間の喜怒哀楽を長年見てきたという驕りと、加齢を認めたくない焦りがあったのだろう。大谷氏の記事の言葉を借りるなら、オタクと人間として対話も心の動きも全くしてこなかったのだろう。

大谷氏の著作は1987年に出版した『開け心が窓ならば-差別反対大合唱が最初のもののようだ。そんな人が明らかな差別発言をしていた。今はどうかは分からないが。

これも差別反対運動に関わっていた自分が差別などするはずがないという驕りから、自らの行動を省みることができなかったのだと思う。ツイッターなどを見ていても差別反対、ヘイトスピーチ反対とか言いながら、「オタク気持ち悪い」「総理大臣はいくらでも叩いてもいい」という人がゴロゴロいる。

そもそも差別心というのは人間の本能である。私は差別心がない人間だというのは、私は人間でないと言ってるのと一緒だ、と言ったのは小林よしのりだったか。差別反対の人でも堂々と差別できる。オタクは差別者のための最後のフロンティアなのかもしれない。

百歩譲って大人のオタクは叩かれてもいいと思うが、氏の差別発言が巡り巡って子供のいじめにつながっているということも自覚してほしい。

いつか宮崎事件でマスコミを恨んだ子供時代のことを書きたいと思う。

 

こちら社会部 全4巻完結 [マーケットプレイスセット]

こちら社会部 全4巻完結 [マーケットプレイスセット]

  • 作者: 大島やすいち
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • メディア: コミック



開け心が窓ならば―差別反対大合唱 (角川文庫)

開け心が窓ならば―差別反対大合唱 (角川文庫)

  • 作者: 黒田 清
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1988/05
  • メディア: 文庫


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ジャンププロデュースが無かったら、鳥山明はどんな作家になっていたのか? [心に残る1コマ]

ネットで鳥山明の結婚式の写真を拾った。
ドクタースランプの頃の貴重な写真だ。
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記事では鳥山明が当時5億円稼いだことに触れ、
>さしあたって今年はアラレちゃんブームで食いつなげるが、いつまでもアラレちゃんを頼りにはできないだろう

などと分析していて、鳥山明人気を一過性のものと見ているように感じる。まあ当時十二分に社会現象を巻き起こしていたドクタースランプを超えるヒット作など、想像もつかないのは無理もない。オバQの後にドラえもんぐらいしか前例がないのでは。。。

 
ところで鳥山明といえば、本来マイナー思考の作家という分析もされている。そこは初代担当編集者だった鳥嶋和彦のプロデュース力が巧みだったというものだ。
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鳥山明が本来描きたいものを書いたら、どんな位置付けの作家になっていたんだろうと考えるのは、ちょっと面白くないだろうか。

先日、鳥山明の画集に書き下ろされた「WOLF」という漫画を久しぶりに読み返したらすごく面白かった。実にオシャレだ。秋田犬だけどWOLFを自称するライダーが、走り出したら誰にも止められないと言いながら、あの手この手で止められてしまう。田舎者がカッコつけるけどキメきれない微笑ましさ。鳥山明が得意とするテーマである。
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「COWA!」はドラゴンボール終了後に初めて描いた週刊連載作品だ。
オバケの子供たちがコワモテのおじさんと旅をするロードムービー的な話である。
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編集長が鳥嶋和彦になったからこそ産まれた作品で、鳥山明の趣味色が非常によく出ているように思える。やっぱりオシャレだ。それでいて、少年漫画のワクワク中二病感もあって、非常に良い配分がなされている作品に思える。
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「COWA!」は非常に好きな作品なのだが、まとめとかであまり語られているのを見たことがない。
まあ鳥山明の話を始めるとドラゴンボールの話題でいっぱいになって、マイナーな短編の話などかき消されてしまうのかもしれない。
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とりとめのない妄想ではあるが、ドラゴンボールなどが無かったら、オシャレなイラストレーター的な作家になって、いまもそういう作品を量産し続けている人になったのかなあとそんなことを思う。そんな作品をもっと読みたい。

 

COWA! (ジャンプコミックスDIGITAL)

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  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1998/05/01
  • メディア: Kindle版



鳥山明 THE WORLD (ジャンプコミックス デラックス)

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  • 作者: 鳥山 明
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1990/01/10
  • メディア: ペーパーバック


タグ:鳥山明
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ゴールド免許が覆面パトカーに遭遇した時に思い出す、桜玉吉「おやじの惑星」 [心に残る1コマ]

こないだ車で帰省した時の話。
杓子定規的な人もいるので一応本当の話を装ったフィクションです。

やたら白バイがいるなー、取り締まり強化期間なのかなー、やばいなーと思っていたんですけど、高速乗ったらそんなことはすぐ忘れてしまいました。

追い越し車線に移ったら、後ろから白い車がついてくる。
煽りって感じではないけども、様子見て必要なら譲ろうと思ってたんですよ。
プレッシャーあるので、ちょっとスピード出しますわな。
そしたら後ろの車もピタリとついてくる。

幾ら何でもこれはやばいかもしれない(主観)というスピードになってしまってもそんな感じ。
その時、左車線にスペースができたので移ったんですよ。
勢いの割には多少躊躇した感じで抜いていったんですけどね。
そしたらまた自分も追い越し車線に戻りますわな。

そしたら後ろからまた似たような白い車が来たので、また譲ったんですよ。
その車、俺を抜いてしばらくして、天井からピョコッと取締りのあのランプが!

驚きましたねえ。
あまり高速使わないんで、見たのは初めて。
その変形シーンを目の当たりにし、タイガーマスク2世の車を思い出しましたよ。

そこは3車線ぐらいあったんですけど、周りの車が一斉に「シーン!」って感じのお通夜に。
繰り返しますけど、覆面パトカーって本当にあるのかなって思ってたぐらいの基本安全運転のゴールド免許なので、最初は今どこかで事件の通報があって、ここから駆けつけるのかなぐらいに思ってたんですけど、徐々に「これはスピード違反取り締まりかもしれない。。。」と青くなりました。

思い出したのは桜玉吉の「おやじの惑星」の4コマ。
集団でスピード違反していた場合は先頭車両を捕まえるという話。
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いま俺は先頭じゃないし、煽られたみたいなもんだし、二度も譲ってるので大丈夫なのではないかと思いましたけど、二台まとめておロープ頂戴ってこともありうるなとビクビクしていました。

そしたら最初に俺を抜いていった車の前に覆面パトカーが移動。
よく見ると後部座席に電光掲示板があって、そこから左に誘導している。
パトカーと最初の車は二台仲良く最左車線に。

俺はこの場を立ち去っていいのかとか、このあと追いかけてくるんじゃとか、後ろから来る車がそうなんじゃないかとかビクビクしながら家路にたどり着きました。

運が良かったのかもしれない。
確率論だとすれば、いずれ悪いサイコロの出目は出るわけです。
そんなことにならないよう、なるべくそんなサイコロは振らないようにしたいと思います。

走り出したら止められないと言いつつ、いろんなものに止められてしまう「鳥山明 THE WORLD」収録の書き下ろし漫画「WOLF」も思い出した。これいいよなあ。
覆面パト2.png

そんな教訓的なフィクションでした。

 

おやじの惑星

おやじの惑星

  • 作者: 桜 玉吉
  • 出版社/メーカー: 白夜書房
  • 発売日: 2000/06
  • メディア: コミック


タグ:桜玉吉
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時間を超えた名作と新作の夢の対決は成立するか!? [心に残る1コマ]

A:あるまとめに「ナルトやワンピースだって今連載したら通用しないと思う」ってコメントがあってびっくりした。こういう話はドラゴンボールや北斗の拳とかがよく挙げられるけども、もうワンピースやナルトが挙げられる時代になってしまったのか!って驚いた。ワンピースはまだ連載してるのに!

B:逆に、「進撃の巨人」が20年前に連載始まってたらライバル多すぎてヒットしてなかったという意見も興味を引いた。

 
A:【過去の作品が現在の作品に挑むパターン】
実際通用はしないと思う。通用するんだったら載せてるだろう。だが載せないのが、作品として劣っているかという話ではない。露出の場として現在は適していないというだけだ。

B:【現在の作品が過去の作品に挑むパターン】
20年前を1999年だとすると、逆に手薄な感じがするがどうだろう。ジャンプの発行部数も最盛期から290万部も落ちている。失神しそうな数字だ。

それに漫画というメディアは、作者好みの様式を模倣しアレンジしていく文化だ。

荒木飛呂彦は
音楽の素晴らしさは連続する音の美しさであり、モーツァルトは『音符1つとしてカットできない』と皇帝に向かって言ったし、生命も連続するDNAという鎖でできている。そう考えると、この世には連続するどうすることもできない「運命」というものが存在するのを認めざるを得ない。「ジョジョの奇妙な冒険」63巻
…と言った。なんか通ずる部分がないか。

未来の作品を過去に持っていくことはできない。
目立つところで、2009年連載開始の進撃の巨人の立体機動兵器は2003年サム・ライミ監督の映画「スパイダーマン」からの影響があると思われる。殺陣は全盛期のMMA選手の岡見勇信に影響されていて、これも2006年ごろの話。進化論的には進撃の巨人は1999年に出現しないのだ。すればオーパーツだ。ひょっとしたら今よりもっと話題になったかもしれない。

 
益のない話である。
そもそも面白さは数値化できない。
誰しも多感な頃に見たものが一番面白いに決まってるし、同世代だってどういう環境で過ごしたかで何が面白いかが変わる。性癖も人それぞれ。

荒木飛呂彦は
『グッとくる映像』には、まだ続きがありまして、刑事が犯人を追跡する映像では『雨が降ってる』とすごく良いですねェ……。どんなところがいいのかって言うとその理由がさっぱり言葉では説明できないところが、『グッとくる映像』なんですねェ。刑事には雨です。それともうひとつ。『男がひとり馬に乗って荒野を行く』って映像を子供の時、初めて見た時は誰かが、すでに教えてくれたのか、「カッコイイ」というのは、こーゆう事なのだと本能的というか、すでに知っていたような気がしてならない。「ジョジョの奇妙な冒険」59巻
…と、語っている。


発行部数にしたって、人口や物価の影響もある。
まあヴァンダムとスタローンどっちが強いみたいな子供が話すレベルなのかもしれない。信長の野望と三国志で戦ったらどっちが勝つとか考えるのも面白いだろう。
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何はともあれ一番ダメなのは、「俺の世代が最高。ほんっとに今はダメになった」、こういうことを言い出す輩だ。自戒したい。

 

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そのタイトルに二の足踏む!大人気のカルロ・ゼン「幼女戦記」はなぜ「ようじょ」なのか? [この人気漫画が面白くない]

カルロ・ゼンの「テロール教授の怪しい授業」を読んだ。テロとは何かを語った漫画で、その辺はすでに「ゴーマニズム宣言」で学んでいたので、それ以上のものは無かった。というか、ここからだろう!というところで終わってしまっているので惜しい漫画だと思う。ゴーマニズムはテロを肯定するとこまでいっちゃってるからな。

モヤモヤしたので、原作者のカルロ・ゼンについて調べてみる。なんか大作家感が名前からして鼻につく。そしたら「幼女戦記」の作者だということがわかった。このタイトルについては「なんだそりゃ?」「なんかヤバそうなタイトル!」と思って敬遠していたのだ。だって幼女だぜ?

アマゾンプライムにアニメがあったので見てみたが、その内容にぶっ飛んだ。

1:計算高い嫌われ者のサラリーマンが神様に殺される
2:異世界転生して幼女に
3:そこは第二次大戦のヨーロッパみたいな世界
4:魔法を駆使して空中戦を行う

なんという欲張りな内容だと思った。
アクションシーンが特によく出来ており(アイアンマン意識してるのかなー?)、かなり原作がリスペクトされていることが感じられる。俺はなんか消化不良気味で、これの1〜4のうち、どれか一つ削るのが収まりがイイんでないかと思ってしまうが。

まず「幼女」は外せないのだろう。
わざわざタイトルで使うぐらいだし。
繰り返しになるが、「幼女て」と思う。

「喧嘩に強くなりたい」とか「素敵な恋愛がしたい」だとか、漫画などのメディアは願望を擬似的に叶えるための装置という一つの捉え方ができる。それがあまり声高に言えないような種類のものだったり、ニッチすぎると批判が起こったりしてしまう。「幼女戦記」は「幼女に生まれ変わって無双がしたい」層のニーズに応えたもの?そんなニーズがあるの?と混乱してしまう。

子供になってしまう漫画は昔から色々読んだ。いま一番有名なものは名探偵コナンだろう。これも高校生の名探偵漫画じゃダメで、子供にならなくては成立しないと作者は思ったわけだ。子供が大人相手に無双する理由づけとして、若返った天才高校生が元の体に戻るための戦い、というストーリーになっている。

女になりたいという漫画も昔からあった。俺は幼女もダメだが性転換願望もダメなので、ちょっと苦手なネタだ。Kー1の石井館長が女子高生になるみたいに、時々オッサンが若い女になるようなギャップを利用したギャグとして使われる場合も多い。

女になりたい男の人、というのはわからんでもないのだが、幼女になりたいという作品がこれまであっただろうか。ただ、アニメ版を見た限りでは幼女は単なる記号である。神様から与えられたピンチの中の最たるものなのだが、心はオッサンのまま。体力は軍隊に入って銃をぶっ放したり、新兵をしごいたりできるぐらいで、幼女的リアリティも何もない。登場する軍人達も、幼女をほぼ大人扱いである。

 
こないだ実家に戻って身内三人で集まってみれば、他の二人とも「幼女戦記」を見ていて好ましいと言っていたのでお口あんぐりである。片方の子持ちの腐女子は小説版で読めば色々わかると言っていたので、まあ保証はないけど読まなければわからない部分はあるのだろうなとは思う。もう片方の男の方は別に幼女好きでも、幼女になりたそうでもない。かなり純消費者に近い思考の人で、それほど作品に対する思い入れもない。タダだから見て楽しんで、忘れてしまうという感じだ。

みんなKー1の石井館長が女子高生になる〜みたいに、ギャップとして楽しんでいるのかもしれない。自分は宮崎事件で、もともと興味ない「幼女」というワードに危害を加えられたトラウマがあるので警戒心が半端ないので、どうにも視聴に抵抗が加わる。そもそも幼女になりたいニーズは本当にあるのか。それがそもそも偏見かもしれない。繰り返しになるが、幼女戦記における幼女は記号である。子供に軍服を着せたら可愛いよねーぐらいの意味なのかもしれない。

「幼女戦記見れるなら大西巷一の乙女戦争読めよ!長篠の戦いinヨーロッパだぞ!」
「嫌だよ!あれ戦場レイプとかあるじゃん!」

そんな会話をしましたが、確かに内容は乙女戦争の方がヤバい。これが幼女戦争だったら買えなかっただろう。カルロ・ゼンはなぜ乙女戦記ではなく、幼女戦記にしてしまったのか。乙女戦記だったら、こんな違和感をタラタラと書くこともなかったのかもしれない。

こういうタイトルをつけられ、広く受け入れられるのも、事件の記憶が薄れてきたというのがあるのかもしれない。それがいいことなのか悪いことなのか。人気作品になれば今後犯罪者の部屋から出てきて結び付けられる可能性も高い。その時に作者は、出版社は、ファンは、外野はどう対応するのか。何も起きないことを祈るばかりである。

 

[まとめ買い] 幼女戦記

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タグ:ラノベ
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やってはいけない!名作漫画「プレイボール」「岡崎に捧ぐ」の唇ペロペロ [モテる漫画]

女の子にモテる確率を1%でもあげるための習慣、その1。
リップクリームを使う。

 
むかし2ちゃんのまとめで、オススメのリップクリームが紹介されていた。

【医薬部外品】DHC 薬用リップクリーム

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それを寝る前に多量に塗っておくといいとか書かれていた。
なるほどー、と思い、今でもたまにやる。

ちばあきおのプレイボールで「舌で舐めるといい」というのを読んで以来、ずっとやっていたのだが、それだと却ってガサガサになってよく無いらしい。
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唇は真っ先に目がいくパーツである。
ここのメンテナンスをアピっておけば、他のパーツのケアも行なっているとアピールできる。
人間の進化の過程で、むかしお尻で行なっていたセックスアピールを唇で表現するようになったという説もあるんだっけ。

そのことの効果が出たのかどうなのかわからない。
以前、同じ職場で働いていたアイドル並みに可愛い子が、リップクリームを忘れて取りに戻ってきたので渡してあげた。そのリップが例のDHCのヤツだったのである。

「DHCのヤツだね?」
「はい(笑)」

「やったー、詳しいアピールできたぞ!」と内心思ったのだが、でも女の小道具知ってるのもキモいかなとも不安に思ったりした。が、その後、彼女から「私とお別れになっちゃうんですよ、いいんですか。」「一緒にご飯行くとかアリですか」などのモーションを受けてデートできたので、まあ効果があったのかはともかく失敗では無かったようだ。

あれからそろそろ一年か。。。

 
「岡崎に捧ぐ」にも唇ペロペロを卒業するシーンがある。
ぺろぺろ1.png

 

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七馬伝、本当の大団円?鴨川つばめの「マカロニほうれん荘」は七馬リスペクトを込めた漫画だった [あの人は今]

謎のマンガ家・酒井七馬伝」、最後の章が「大団円」だった。

【大団円】
小説・芝居・事件が、めでたくおさまる最後の局面。

何か大団円になる要素があるのだろうかと興味を引かれたが、戒名が「らしい」のが大団円というオチだった。あまりピンとこない。

手塚が生涯許さなかったという七馬の代表作でもある「新寶島」の復刻は、「七馬伝」の二年後に許されたらしい。さらに二年後、「七馬伝」の増補改訂版が刊行されているが、復刻のエピソードも追加されていることだろう。なんかプレミアがついて5000円ぐらいになっているので読めませんが。

 
ツイッターで酒井七馬を検索したら、「マカロニほうれん荘」で有名な鴨川つばめが酒井七馬の弟子を名乗っている記事が出てきた。

中学生の頃、七馬の「漫画家入門」に感動し、弟子入りしようとしたが「バラックに住んでコーラしか飲めず死んだ」説を聞いて、業界のあり方に憤りを覚えた。七馬の敵討ちが原動力になり、体を壊すまで描き続けたという。


療養中は七馬のことも忘れていたが、画業再開後も七馬への尊敬を表すことは大きなテーマになっているようだ。鴨川つばめは読んだことがないので、いつ頃の記事なのかよくわからない。80年代だろうか。なんかやたら過剰すぎる気もするが一世を風靡した漫画家にそこまで慕われるとは、酒井七馬も漫画家冥利に尽きるというものだろう。これもまた増補改訂版に加わっていたりするのだろうか。

ちなみに「七馬伝」には大山和栄と内弟子的な関係にあったと書かれている。こちらも読んだことないけども、画像検索するとかなり売れっ子感がある。しかし大山がマンガ家として目覚め志すのは七馬と交流したもっと後の話で、インタビューを受けるまでかなり無自覚なところがあったらしく、作風に与えた影響は皆無に等しかったことに対し後悔の念を述べている。ちなみに大山は「七馬伝」の三年後、2010年に乳がんで亡くなっているそうだ。「新寶島」の復刻は見届けられただろう。

ちなみに大山はキッパリと七馬困窮説を否定している。
ただやはり、七馬が三度の飯よりコーラが好きだったのは間違いないようだ。

 

「新寶島」の光と影―謎のマンガ家・酒井七馬伝

「新寶島」の光と影―謎のマンガ家・酒井七馬伝

  • 作者: 中野 晴行
  • 出版社/メーカー: 小学館クリエイティブ
  • 発売日: 2011/10/01
  • メディア: 単行本



謎のマンガ家・酒井七馬伝―「新宝島」伝説の光と影

謎のマンガ家・酒井七馬伝―「新宝島」伝説の光と影

  • 作者: 中野 晴行
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/02
  • メディア: 単行本



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江川達也の解説動画から考える「手塚石ノ森知らないと嘆かわしいのか」問題、手塚治虫の答えは「それでいいんです」 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]

こないだ山田玲司きたがわ翔江川達也について語る動画を見た。

江川達也のデビュー作、「BE FREE!」について語る語る。
特にきたがわ翔の分析がすごい。
何枚もスケッチブックに江川達也の絵を模写して解説。

前後編になっており、前編はほとんど「BE FREE!」で終わっている。
金取れる動画だ。
実際、後編を課金して見たぐらいだ。

ところがである。
後編で「BE FREE!」以降になると、ほとんど語らなくなってしまうのである。
読んでいる人を出して語らせ、それをあまり興味なさそうに二人は聞いていたように見えた。

二人とも、今後も江川に描き続けて欲しい、俺たちだけは何が起こってもずっと味方だとエールを送りつつも、「BE FREE!」以外はなんの興味もないのである。おそらく新作描いたとしても読まないだろう。

江川達也作品を自分が最初に読んだのは「まじかるタルるートくん」だ。
当時感じたありのままを言えば器用な中堅作家という印象だった。
鳥山明的なセンスを感じたが、計算が目に付く。
今読み返すと、逆にそれが良いとも思える。
現在のイメージと遠い、読者に対して謙虚な姿勢を感じる。

タルるート後、「東京大学物語」「ゴールデンボーイ」の二刀流で打ちのめされた(初期は)。これは読めねばなるまいと思い、「BE FREE!」の愛蔵版を全巻購入したのだが、これがまたイマイチだったのである。当時、「BE FREE!」をバイブルに挙げる作家をよく見た。今でもたまに見る。何か革新性があったんだろうなというのはなんとなく伝わる。

きたがわ翔の解説を聞いていると、「BE FREE!」はそれ以前のマンガの予備知識があるからこそ楽しめたというのもあるようだ。リアルタイムで読んでいたからこその面白さ、革新性ではないのかということだ。だからタルるートから読み、「東京大学〜」を経て「BE FREE!」を読んだ自分には良さがわからなかったのではないか。そして動画の二人にとって、それ以後の江川作品は自己模倣の縮小再生産に思われた。一人の作家でも、どこから読むか、世代によってこれだけ評価が変わってしまうのである。

江川達也解説動画は、漫画が作家間で行われる記号のリレー、伝言ゲームだということも示唆している。だからそのことさえ分かっていればぶっちゃけ読んでおかねばならない過去の作品なんてものは無いように思える。

新しい世代が古い世代の作品を読むことは、一手間加わる。同じようでフォーマットが違うのだ。ジャンプしか読まない人がアメコミや少女漫画を読み始めるようなものだ。前回の「手塚や石ノ森を読んだこともないなんて嘆かわしい」のエピソードだけれども、苦労なく読めた世代のくせに、苦労を強いられるから読まない世代にマウントをとっているわけである。実際、嘆いた人がどんな人かは知らないけれども、こういうことは往往にしてある。

最近よく2ちゃんのまとめで「ドラゴンボールなんて今のジャンプで連載したら10周打ち切りだよな」という挑発的なコメントを見かける。おそらく「ドラゴンボールも読んでないなんて。。。」という人たちに対するカウンターなのだろう。最近、ドラゴンボールハラスメントとか炎上してたなそういや。江川達也がよく「自分は一番厳しい時代のジャンプで戦ってきた。今の奴らと一緒にするな」みたいなことをコメントしてた。

「ワンピース」や「ナルト」から漫画を読みだした今の世代の子が、どう読んでもドラゴンボールが受け入れられない、過大評価だと感じるのは有り得ると思う。「黒子のバスケ最高!」と言ってる若者に「スラムダンクも読んだことないなんて。。。」とか、気持ちはわかるが、構造的に陥りやすい老害の道に入り込み始めてると理解した方がいいと思う。ちなみに俺は「はじめの一歩」を中学時代の頃から愛読しているんだけど、「あしたのジョー」は二十歳ぐらいになって初めて読んでピンとこなかったんだよなあ。

 
ここがどこだって?
俺が生まれたんだから世界の中心よ!
…というノリは嫌いでもないけども、誰にとっても自分の生まれた時代が全て。
だからどの世代も「〜は最近ダメになった」「今時の若いもんは」などと繰り返すわけである。
ある意味避けられない現象だが、自覚的でいることは大事だと思う。

 
石ノ森章太郎が手塚治虫との興味深いやり取りを漫画にしている。
残りません.png
「…マンガは残りませんよ。」
「…そうかなァ… そうでしょうか。」
「作者と一緒に時代と共に、風のように吹き過ぎていくんです。ーそれでいいんです。」

さすが巨匠だなあ、と思う。

 



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手塚治虫、石ノ森章太郎を読んでいないのは嘆かわしいのか?自分の漫画史に誤解はないか問題 [漫画の描き方が書かない漫画の描き方]


「手塚、石森、赤塚あたりいまの学生さんも読んでて当然、と漠然と思ってる中高年は多いと思いますが、そんなことはないのですよ。手塚はどうも地域の図書館や学童にあった等で、それでもまだ読まれているほうですが。」

というツイートが話題になってまとめられていた、…というのを今頃知る俺のアンテナ。漫画専門学校の講師なのだろうか、漫画の歴史の授業でレジェンドの名前を出すと教室が白けた感じになるのがわかるので嫌なのだそうだ。

それに対して、発言主に共感する意味で「嘆かわしい」とリプライする人がいて、講師が「それは違う」と返事したやりとりがすごく印象に残った。

(注意:ここからは俺の解釈で、講師さんの意図がなんだったかというのは置いておく。)

 
手塚、石森あたりに興味を持たないことが嘆かわしいだろうかと思う。
漫画の歴史の先生が知らなかったら嘆かわしいかもしれない。
単なる読者は、手に届くところにある漫画を読んで、電車の網棚に忘れて帰るのみである。

漫画編集者だったらどうか?
漫画家は?

この辺は実力主義だ。
実力が無ければそこに結び付けられてしまうかもしれないが。
本当に実力のある人なら、逆に変な予備知識がない方がいいのかもしれない。
実力のない人は古典よりも、近年のヒット作を知っている方が重要だろう。

弘兼憲史の「ラストニュース」のこのコマ好き。若手経営者がちょっと老害入ったカリスマ経営者に宣戦布告するシーンである。
通用しない1.png
「君の父上は本当に良きライバルでしたよ。」
「ありがとうございます。しかし、もう父の時代のやり方では通用しないと思っております。」
通用しない2.png
「ふむ…しかし、キミが父上を乗り越えるまでにはもうちょっと時間がかかるでしょうなあ。」
「東都新聞は百年の歴史を誇りますが、テレビ業界はたかだか四十年(1993年時点)の浅い歴史しかありません。経験が必ずしもプラスに働くとは限らないでしょうね…」

 
漫画の歴史というと、大抵の人が思い浮かぶのはいわゆる「トキワ荘史観」というヤツだ。手塚治虫が誕生して漫画が生まれ、それに憧れた石森、赤塚、藤子不二雄とその他のよくわからない仲間たちが集って漫画文化を確立した。これが一般の日本人の認識だと思う。その上のレベルになると、貸本という媒体で描いてたさいとうたかをとかがいて…ぐらいのボンヤリした知識が入ってくる。

この辺を知らないと「嘆かわしい」とマウント取りに来る人は割とたくさんいそうな気がする。

だが、それ以前にも漫画はあった。
みなもと太郎の「マンガの歴史」にその辺のことが書いてあったような気がする。気がするというのは、読むのが苦痛で読んだ後に全て忘れてしまったのだった。別にマンガの歴史に興味があったわけでなく、みなもと太郎ファンだから買っただけなのだ。これが漫画で描かれていたら、もっと頭に入ってきたのであろうが。。。

「嘆かわしい」というからには、この辺の手塚以前も知っていなければ話にならんだろう。こないだ手塚治虫の師匠である「謎の漫画家・酒井七馬」を読んだばかりだが、知らないことばっかりだった。そして、そんな俺の知らないことにもマニアがおり、交流したり展示会を開いたりして知識を補完しあったりしている。正直、ちょっと頭がクラクラした。

人それぞれの漫画史があると思う。
無難にまとめに入りたいわけではなく、それぞれ「こうだ!」という漫画史があり、それが正しいと誤解しているのではないかという話だ。

 
続く。

 
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手塚治虫に絶縁されコーラしか飲めずに孤独死した漫画家の真実!中野晴行「謎のマンガ家・酒井七馬伝」 [あの人は今]


映画「バクマン。」の主題歌、サカナクションの「新宝島」について記事を書いているとき、元ネタになった手塚治虫の「新寶島」に共著者がいることに気がついた。名前は酒井七馬。

そんなことも知らねーのかよと言われそうだが、本当にもうぜんっぜん知らなかった。だって「まんが道」も「チェイサー」も「ブラックジャック創作秘話」も「ボクの手塚治虫」にも、そんな話ぜんっぜん出てこなかったでしょ?こなかったよね?そもそも俺、あまり手塚治虫に興味がねーんだよ。

「まんが道」を読み返してみると、確かに表紙には「酒井七馬」の名前が描かれている。なんか一瞬「ん?」と思ったけど、そのままスルーした瞬間がよくよく思い返せばあったような気がする。
酒井七馬1.png

この酒井七馬について、こういうストーリーがあったらしい。

1:手塚治虫に「新寶島」を描かせ、好きなように改変し、手柄を独り占めにしようとした漫画家。
2:それ以後、手塚と絶縁し、晩年は貧乏でコーラしか飲めず孤独死した。

3:それが近年、ちょっと違うことが判明し、名誉が回復された。

この辺、すごく知りたくなったので、手塚が酒井の死について誤ったことを書き広めたという「ぼくはマンガ家」と、酒井七馬について調べた本、中野晴行の「謎のマンガ家・酒井七馬伝―「新宝島」伝説の光と影」を購入してそれぞれ読んでみた。

あくまで俺の読んだところで、完全に理解してるかどうか自信がないが簡潔に説明すると、

・酒井七馬はかなり上手い。
・しかもアニメーターの仕事も経験している。
・しかしあまり商売っ気はなかったようだ。
・編集者に口出しされるのを嫌い、好きなようにコツコツ描いていれば満足な作家という印象を受けた。

酒井七馬4.png
(「謎のマンガ家・酒井七馬伝」に掲載されている作品の例)


手塚の新寶島を改変したのも、クレジットを独占したのも、当時七馬が手塚の師匠的立場だったということが大きく影響しているように思える。新寶島は、当時少年だった後の大作家たちに大きな影響を与えた作品ではあるが、当時の出版社や手塚も尊敬するベテランの人気作家たちからはボロクソにけなされたと手塚本人が「ぼくはマンガ家」で語っている。

「もう少し絵を勉強なさってください」「こりゃひどい。これで、君がデッサンをやってないことがはっきりわかった。」なのだそうだ。七馬がそういう扱いをしたのもスジが通っている。
手塚3.png
(画像は矢口高雄「ボクの手塚治虫」)

ちなみに手塚が七馬の元を離れたことを、手塚の母が手塚治虫を連れて謝罪にきたと七馬が複数の人に話ししているという証言もあると、ウラの取れない話だからか少し遠慮がちに著者は紹介している。まんが道に出てくるあのお母さんが。。。と思った。
酒井七馬2.png
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さらに取材を進めると複数の関係者から、酒井七馬から聞いた話として、手塚と母親が手みやげを持って謝りに来たので酒井は奥付のトラブルはなかったことにした、という証言も出てきた。軍人の娘で、儒教的な教育で育った手塚文子の性格からして、息子が恩師と反目している状態は放置できなかったことは十分に考えられる。(謎の漫画家・酒井七馬伝)
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二人のその後の関係もそんなに悪いものではなく、たまにイベントで会ったり、七馬の葬儀には駆けつけられなかったものの、数日遅れて仏壇の前で手塚は手を合わせたと著者は書いている。

しかしちょっと腑に落ちない部分もある。七馬はそれなりに金を残していたが、医者嫌いで病状を悪化させ、最後はコーラしか喉を通らなかったというのが真実だと「謎のマンガ家〜」の著者は書いているのだが、実際親族の前で手を合わせた手塚がその辺のことを全く聞いていないのかな?と思う。事前に間違った情報を聞いていたので、気まずいのでその辺に触れられなかったというのはあるかもしれないが。
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なんでも、入院費も治療費もなく、バラックの自宅にたったひとり、寝たきりのままコーラだけを飲み、スタンドの灯で暖をとっているのを人が発見した。が、そのときはすでに手遅れだったそうである。生活はよほど困っていたらしいが、仲間に会うときには、きちんと背広を着、胸ポケットからハンカチをのぞかせて出席するだけのプライドをまだ持っていたので、誰一人、氏の体が病魔に蝕まれていることに気づかなかったという。(ボクはマンガ家)
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仮に見てきた事実だったとしても、なかなかこんなことは書けないと思うのだが。親族が読んだらどう思うか。天才・手塚治虫がやらかした、というのは考えられるけども、七馬困窮説が事実でないとしたら、よっぽど根に持ってたのではないかとしか俺は考えられない。

手塚は「新寶島」の復刻を生涯許さず、全面的に描き直した「新宝島」を流通させていたという。

「まんが道」や「ボクの手塚治虫」の「新寶島」が紹介されるコマを確認すると、表紙に酒井七馬の名前はちゃんと確認できる。
酒井七馬3.png
が、その説明は一切ない。まあ説明する必要はないと思うけど、行間なのかもしれないなと思うと味わい深い。そういえば新寶島の表紙を見て、手塚治虫の絵っぽくないなあと思ったこともあった。酒井七馬が描いているそうである。

ちなみに「謎のマンガ家〜」にはみなもと太郎も取材に協力している。何にでも顔出す人だよと笑えた。無名時代、マンガショーなるもののイベントで酒井七馬とご一緒したらしい。
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当時のみなもとたちマンガ青年にとって酒井七馬がどのような位置づけだったのかを知りたくて「みなもとさんたちにとって酒井さんはどういう存在だったんですか」と聞いてみた。

「別に…。指定された駅まで行くと、小柄なおじいちゃんともう一人が待っていて、ボクは『ああ、あれが酒井七馬か』と、それだけ。他のメンバーは酒井七馬と言われてもピンと来なかったでしょう。僕だって酒井さんの名前を知っているけれど、マンガは読んだことはない。名前も手塚さんが書いたものに出てきたので覚えていただけ。その程度です。
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酒井七馬が売名に熱心じゃなかった、自己顕示欲の少ない人だったことは本を読んで理解できた。それにしても、巨匠たちのバイブルとなった漫画に少なくない影響をもたらした漫画家の名前が俺レベル(そこそこ漫画好き)で全く知られてないというのはすごいと思う。次回はこの辺について書きたい。

ちなみに、みなもと太郎は喫茶店でひとりコーラを飲む酒井七馬の姿が強烈に印象に残っているらしい。七馬は身ぎれいでオシャレな人だったが生涯独身。甥には、若い頃に恋人に死なれて独身を貫いていたとカッコつけていたのだそうだ。その手、俺も使おうと思っていた。コーラ好きなところもまるで俺である。

俺の晩年はどうなるのだろうか。。。
まあ悲惨だろうな。

 

謎のマンガ家・酒井七馬伝―「新宝島」伝説の光と影

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  • 作者: 中野 晴行
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2007/02
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完全復刻版 新寶島 豪華限定版

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ぼくはマンガ家 (立東舎文庫)

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